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漂石彷徨



蒐集家

 先日、何かの雑誌で、トロツキーの暗殺に使われたアイス・バイルがアルゼンチンで発見されたとのニュースを読みました。写真も添えられていました。私はてっきり、鋭角的にカーヴし、ピックとは反対側に反った形状を想像していたのですが、トロツキーの命を奪ったアイス・バイルは、予想に反してストレート・ピックの古風なものでした。考えて見れば当然なのです。シュイナード・カーヴとテロダクティルが一般的になったのは60年代なのですから。

 ことほど左様に、イメージってのはいい加減なものです。今日、暇に任せて、岩波文庫の「蘭学事始」と、三島由紀夫の「春の雪」を読みました。「春の雪」は映画化されて、現在公開されているようです。一般に、原作の好きな人は映画化された作品を好まない傾向があるようですが、これはおそらく個人的なイメージと監督が作った映像との間のギャップによるものでしょう。
 「蘭学事始」の中で、ターヘル・アナトミアに記載された人体図の真否を確認しようと、杉田玄白とその友人達が、千住骨ヶ原の刑場で腑分けに立ち会う場面があります。腑分けの後、骨骸の形状の正確さを確認する為に、打ち捨てられた刑死者達の骨片を拾ったという記述があります。筆者玄白は、その真摯な探究心から、イメージのギャップを必死で埋めようとしているのに対して、私を含むいい加減な読者達は、勝手なイメージを膨らませます。このような場合のイメージはいい加減でもかまいませんが、本来歴史は正確に伝えられなければならないものだと思います。
 米国人にとって、米国の歴史の浅さはコンプレックスのひとつです。そのためか歴史に対しては、過剰な程のこだわりを見せます。この点はクライミングに関してもいえることのようで、米国各地のトポを見ると、そのことが強く感じられます。理由はどうあれ、このことは個人的には非常に羨ましく感じられます。日本のフリークライミングには20年そこそこの歴史しかありませんが、それが日本に伝来する以前の発祥地である米国、さらには英国、東独などの歴史を加味すれば充分厚みのあるものになる筈です。柘植氏の「ジョン・ギルの足跡を訪ねて」から、草野氏の「石の人」での実践に至る過程は、このことを如実に語っています。

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写真:新旧の「マスター・オブ・ロック」。左は77年の初版、右は98年改訂のペーパーバック版。

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写真:ヨセミテのボルダリングのトポ

 97年に始めてヨセミテに行った時、6ドルでドン・リードの「Selected Bouldering Yosemite Valley」を買いました。現在売られているものは、改訂第3版(10ドル)ですが、これは第2版だったようで、高難度はフレンチでグレーディングされています。Vグレードはまだ普及していなかったのです。また、当時はまだクラッシュ・パッドが日本に輸入されておらず、カメの甲羅のようなマットを背負ったボルダラーにその用途を聞いて驚いたことを覚えています。
by tagai3 | 2005-11-06 19:13 | 書評 | Comments(0)
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岩登りについての所感

by tagai3