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漂石彷徨



先蹤者の足跡

 2006年4月29日、乾徳山に行く。
 日本登山体系8八ヶ岳・奥秩父・中央アルプスP145 : 『登山道が頂上に近づくと、最初の鎖場があらわれてくる。これが「念仏岩」。すぐ裏の雨乞岩周辺とあわせて、ボルダリングを楽しむには絶好の場所だ。』(1981年12月初版・1986年12月第3刷)
 岩と雪108号 : 『乾徳山では、やはり小俣らによって、扇平から山頂へ至る登山道のボルダーも開拓されている。』(1985年4月)
 日本100岩場P175 : 『乾徳山 古典的ゲレンデである「旗立岩」のほかに、ボルダーも登られている。岩=108号 岳人=2000.11』 
(後に聞くと、この他にも、嘗てボルダーのトポがHP上で公開されていたことがあったらしい。ただし、今どうなったかは知らない。また、後に「クライミングジャーナル」14号1984年11月に詳細なトポが出ていたので、可能な限り課題の特定を試みた。)
 これらの記述がずっと気になっていた。さほど期待していた訳ではないが、喧騒を離れた本来的なボルダリングが可能な地は、もはや僻地にしか残されていないという感を強くしている今日この頃である。猛禽に生息域を追われるるライチョウの如く、高所に活路を求めたという次第である。ただし、こんなことを言いながらも、山を歩くのが嫌いではないという事実は、白状せねばなるまい。またしても風邪をこじらせ、2週間近くクライミングができなかった。昨日の金曜日、船橋のジムに行ったが、初級者向けのグレードにも非常に苦労する有様だった。筋紡錘が力の出し方を失念している。それ以前に、筋肉そのものが2週間何もしなければ衰えるのは当然だろう。どうせ今日はたいして登れる気がしないので、リハビリを兼ねて、夏のクライミングの避暑地の下見に行ったというのも理由のひとつである。
 現在の我々は、日本のボルダリングの黎明期に活躍した先人達(戸田直樹、池田功、中山芳郎、堀越隆正等々の諸氏)の残した課題を通じて、彼等の実力が驚くべき水準に達していたということを知ることができる。先日私が苦労して登った「幻のエッジ」の裏のフェースも、細谷克則氏等が既に登っていると考えるのが自然であろう。彼等こそが真の「開拓者」であり、予め与えられた環境の中で単にムーブをなぞることのみに腐心する現在の自称「ボルダラー」とは大きな違いが存在する。今触っている課題が、20年以上も前に登られていたということを意識するだけで、岩そのものやクライミング文化への敬意も自ずから生じる。古い記録を読む際の要点は、玉石混交の記録の中から、真に価値ある登攀の記録を見つけ出すことだ。ハズレも多いが、古くて素晴らしい記録を見つけた時の喜びは何物にも替え難い。
 では、本題の乾徳山のボルダーであるが、正直な感想としては、ハズレであった。それなりに岩はある。プロジェクトとして意義のありそうなラインもいくつかあった。ただし、往復4時間の歩行に耐えるだけの価値があるかと問われて、自信を持ってあると答えることはできそうにない。


 本日の行程:夢想国師禅窟→月見岩→扇平→髭剃岩→念仏岩→雨乞岩→山頂
先蹤者の足跡_e0049213_062411.jpg
(写真:岩窟中央)

(1). 登山道入り口から1時間程、国師ヶ原の分岐を過ぎて月見岩に至る手前左側に、石像が安置された前傾壁がある。これが或いは夢想国師が座禅した場所なのかも知れない。中央にクラックが走っていて、クラック上部には錆びた横型のピトンが1本残っている。クラックには岩が剥離した跡があり、人工登攀の練習の所為でこうなってしまったのかも知れない。見た目には脆そうだったが、その他の部分にはそれ程浮いているところはなかった。正面をSDスタートで登ってみる。仮称「岩窟正面」。3級位だろうか。(→CJ14号では特定できなかった。)
この岩はその他にも遊べる可能性があったが、先を急ぐのでこれだけで切り上げた。
(2).月見岩は、ボルダーとしてはどうにもならない。景色としては綺麗だが、どの面からも運動靴でノーハンドで歩いて登ることができる。そのやや下の岩塊も同様だった。
(3).①扇平の入り口近くにある岩のカンテの裏側からガバをつないで登ってみる。仮称「扇平入口」。8級位だろうか。(→おそらく「バンパイア(Ⅴ)」であろう。) ②正面のスラブを掃除する気力は湧いてこなかった。(→これが「迷路(未解決)」だろうか?)
(4).髭剃岩から念仏岩(最初の鎖場)にはあまりいい岩はない。念仏岩裏の10mくらいのスラブや20m位のフェースは、そこまでのリスクを犯してまで登る意欲を掻き立ててくれない。(→CJ14号「ウラシマスラブ」、「原人フェース」周辺か。記事ではトップロープとされている。)
(5).雨乞岩周辺が、一番まとまっている。
① 雨乞岩のハングを正面からガバで登ってみる。仮称「雨乞い」。5級位か。(→「雨乞いハング(Ⅴ+)」。) ② やや左からSDでカンテを絡めたらかなり難しかろうが、残念ながら濡れている。(→CJ14号に記述なし。) ③ 左のスラブをガバから登る。仮称「左スラブ(5級位)」。(→CJ14号に記述なし。)
④ 隣にもたれかかる5m位の前傾壁の礫の重なりを見ていたら、ついやりたくなって、やってしまった。脆かったが剥離しなくてほっとした。僥倖をあてにするクライミングはよくない。高くて怖かった。仮称「礫の前傾ガバ(4級)」。(→CJ14号に記載なし。)
⑤ 雨乞岩の裏に前傾壁がある。これは少しだけ面白かった。「左(3級)」、「中央(2級)」、「右カンテ(4級)」。「中央」はガバに地ジャンして、リップのホールドを捜してマントルを返す。なかなかである。(CJ14号の写真と記述から、「右カンテ」→「プレリュード(Ⅴ+)、「中央」→「イマジン(Ⅵ+)」であると思われるが、これらの課題がある「おっペそ岩」は、地図では全く違う場所に書いてあるのでよく分からない。)
(※再訪時(2016/9/3)に確認したところ、まったく別の課題であることが分かった。)
⑥ 「水平クラックのあるフェース(7級)」(→CJ14:「チキン(Ⅳ+)」、「その左のカンテ(5級)」(→CJ14「SMカンテ(Ⅴ-))

 帰路、甲斐武田氏所縁の乾徳山恵林寺を見学(300円)し、金峰山の帰りに寄った温泉に浸かり、農協裏のほうとう屋で豚肉ほうとう(1,300円)を喰って帰った。中央道はガラガラだった。ETCは首都高が2割引。5回乗ると1回ただの計算である。嬉しい。
by tagai3 | 2006-04-29 23:09 | クライミング | Comments(0)
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岩登りについての所感

by tagai3